副社長のいきなり求婚宣言!?
 冷めた口調で言われたものだから、一瞬怒られてしまったのかと思った。

 しゅんとしょぼくれそうになったまま佇んでいると、カードと領収書を受け取り先に行こうとした背中が「帰るぞ」と数歩も行かずに振り向いてくれる。

 もちろん怒られたわけなんてなくて、私を置いてけぼりにしない副社長の優しさは、最初からあちらこちらに散らばっているのだと気づく。


「あの……ごちそうさまでした」

「最初から素直にそれだけ言えばいいんだよ」


 照明の心もとない店内で、斜め前を歩く副社長の後ろをちょこちょこと小走りについて行くと、不意に温かなものが私の手を拾った。

 どきりとして斜め後ろから見上げる副社長の、あまりにスマートな身のこなしに、胸がきゅうと息苦しく啼いた。



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