副社長のいきなり求婚宣言!?
*
 
 雲の上のレストランから地上に降り立ち、回転扉を出たすぐ前のロータリーには、いつの間に連絡していたのか、来たときと同じハイヤーの運転手の男性がドアを開けて待っていた。


「今夜はまだ時間あるか? 今日中には帰す。もう少し付き合え」


 一応確認は取られたけど、副社長はたぶん有無を言わせるつもりはなかったんだろう。

 とても乗り心地のいいハイヤーがしばらく走り、横付けしたのは高層の建物の前。

 既視感を覚えたのは、会社を出た後に、副社長が乗り込んできた場所がここだったからだ。


「あと一杯くらいは飲めるだろ?」


 そう言われてまた手を引かれて入ったロビーは、まるで高級ラウンジのようなシックな照明を灯している。

 どこの音楽ホールかと思うほどのそこには、見るからに座り心地のよさそうなソファが数脚。

 それを横目に見ながら吹き抜けの二階へ長いエスカレーターを昇っていく。


 二階カウンターの奥で「おかえりなさいませ」と恭しく頭を下げたコンシェルジュを見て、ここが副社長の自宅マンションなのだと気づいた。

 さっき行ったレストランのエレベーターよりも広い箱に運ばれたのは、五十二階。

 まさしく天上の世界ともいえるフロアに降り立つと、本当に眩暈を覚える。

 また挙動不審、だと意地悪に細められる目元に膨れながらも、引き寄せられた掌が温かくて、胸がおかしな音で脈を乱した。



.
< 55 / 104 >

この作品をシェア

pagetop