副社長のいきなり求婚宣言!?
「おっ、お疲れさまでございますっ!」

「お疲れ。さ、乗って」


 昼間聞いたものと同じ低すぎない、でも今は冷静を孕んだ声音が、私をいざなってくれる。

 車体から身体を離した長谷川副社長様は、平凡どころか日陰を好んで歩く一般庶民の私なんかのために、助手席のドアを開けるという雑務を引き受けてくださった。


 果たしてこれは夢なのではないのだろうか。

 数時間前から続くあり得ない状況の数々にぐるぐると目が回り、耳の奥で激しい脈の音が轟いている。

 いつもの眼鏡を介さない眼差しがしなりと細められ、外気に冷やされた頬が心臓の大爆発とともにぼんと急騰した。



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