副社長のいきなり求婚宣言!?
「……入賞、させてくださいね」

「ああ、もちろん尽力する。

 そして、晴れて春からはデザイン部でバリバリに働いてもらうぞ。寝る間もないくらいな」

「それじゃブラック企業になっちゃいますよ」

「お客様と夢のためなら、望むところだ。お前も、本望だろう?」

「はい」


 くすくすと交わし合う笑いが、ふ、と途切れる会話とともに静けさに溶ける。

 繋いだ視線は絡んだまま、引き合うように距離が縮まった。


「まどか……」


 もうこんな風に、名前で呼んでもらうこともなくなるんだと思うと、込み上げる淋しさが涙を連れてくる。


「……永人、さん……」

「……」


 口にしたのは自然だった。

 ううん、それは嘘だ。

 わざと、そう呼んだ。

 案の定、副社長は驚きに目を見開く。


 私を忘れないで欲しい。

 もうかかわることがなくなっても、生意気な小娘がいたんだってこと、覚えていて欲しかったから。
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