【短】夏に口付ける。
夏に口付ける。
「元気?」
今年も、去年と同じように夏が来た。
目の前には、君。
「最近、ますます暑いよね。ホントやんなんっちゃう」
オレンジ色に染まった入道雲。
ひぐらしが悲しげに鳴いている。
昨日雨が降ったせいか、湿っぽい空気が私を包む。
「海《カイ》、私ね、……ううん。やっぱり何でもない」
あれから何年も経ったのに、私は今も言えないでいる。
夏の音しか聞こえないこの場所で、たったひとり立ち尽くしていた。─────
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