【短】夏に口付ける。
「やり残したことが多過ぎるなあ」
掠れた声で海が呟いた。
私は点滴が繋がれた、海の筋肉質な腕をじっと見つめた。
「今度の試合だって、空羽に見てもらいたかったのに」
私だって見たかった。
海が活躍する姿。
凄く見たかった。
なんでってそればかり。
そこからは無言の時間が続いていった。
私にはなんて声をかけたらいいか分からない。
「なあ、空羽」
結局、先に口を開いたのは海。
「なに?」
「俺の分まで生きろよ」
海が言ったその言葉は、重かった。
ズシンと鉛のように、私の胸を押し潰す。