ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
抱きたい。
直接的な言葉に、葵は衝撃を受けた。
もちろん――今さらだが、当時高校生の葵は、蒼佑に抱かれていない。
キスをしたり、髪に触れたり、抱きしめられることはあったが、それ以上の肉体関係は、一切なかった。蒼佑はあくまで葵の気持ちを尊重し、無理強いをすることなど一度もなかったのだ。
当時、葵は中学生の女の子のように潔癖だったので、耳年増の友人たちに、『男は我慢できないものだ。我慢させると、浮気する』と言われて、たいそうショックを受けた記憶がある。
そしてそれとなく、当時すでにキスをするようになっていた蒼佑に、尋ねたのだが、『君が大人になるまで待つよ。浮気もしない』と言われたのだった。
今考えれば、それは夢物語に過ぎない発言だったと、葵も理解できる。
据え膳食わぬは男の恥。
男は浮気するもの。心と体は別――。
当たり前のように世間で言われている、男に一方的に都合のいい常識を、葵もまた、そういうものなのだろうと、思いこんでいた。
なのに――蒼佑は、今でも誰とも寝ていないと言う。
(本当に……?)
葵の頭は混乱した。
そんなことが可能なのだろうか。意味が分からない。