ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
たとえ相手が蒼佑であっても、彼が自分を落ち着かせてくれたのは事実だ。
だからこれは、最低限のお返しなのだ。
(大人として、受けた恩を返すだけ……)
葵はそう自分に言い聞かせながら、部屋に戻り、とりあえずルームウェアに着替える。拭きとりシートでメイクを落とすとさっぱりした。
それから、ナツメの新しい下着や使っていなかったルームウェアをクローゼットから取り出して、洗濯籠の上に置いておく。彼が脱いだスーツはハンガーに掛けて、ブラシをかけた。上等なスーツというものは、立体的にできていて、ハンガーに掛けてもすっきりとそのシルエットを保っている。
(それにしても、おっきいんだな……)
蒼佑の体を包んでいないジャケットは、葵からしたらまるでマントのように大きく見えた。
葵はそっとスーツの肩のラインを指でなぞる。
蒼佑は物腰は穏やかなせいか、あまり男性らしい圧力を感じない。
だがこうやって見ると、彼はやはり男なのだと、少しだけ胸がざわめいた。
そしてふと、『抱きたいのは葵だけ』という蒼佑の言葉を唐突に思いだして――。
体の表面が、ピリリと粟立つような不思議な感覚になる。