ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 たとえ相手が蒼佑であっても、彼が自分を落ち着かせてくれたのは事実だ。
 だからこれは、最低限のお返しなのだ。

(大人として、受けた恩を返すだけ……)

 葵はそう自分に言い聞かせながら、部屋に戻り、とりあえずルームウェアに着替える。拭きとりシートでメイクを落とすとさっぱりした。

 それから、ナツメの新しい下着や使っていなかったルームウェアをクローゼットから取り出して、洗濯籠の上に置いておく。彼が脱いだスーツはハンガーに掛けて、ブラシをかけた。上等なスーツというものは、立体的にできていて、ハンガーに掛けてもすっきりとそのシルエットを保っている。

(それにしても、おっきいんだな……)

 蒼佑の体を包んでいないジャケットは、葵からしたらまるでマントのように大きく見えた。

 葵はそっとスーツの肩のラインを指でなぞる。

 蒼佑は物腰は穏やかなせいか、あまり男性らしい圧力を感じない。
 だがこうやって見ると、彼はやはり男なのだと、少しだけ胸がざわめいた。

 そしてふと、『抱きたいのは葵だけ』という蒼佑の言葉を唐突に思いだして――。

 体の表面が、ピリリと粟立つような不思議な感覚になる。

< 111 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop