ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「っ……」

 葵はサッとスーツから後ずさると、両手でパチンと自分の頬を叩く。
 そしてブルブルと頭を振って、蒼佑という邪念を追い出した。

(なに考えてるの、私……)

 髪を後ろでひとつにまとめ、キッチンでいつもより丁寧に手を洗い、冷蔵庫を開ける。

 いつも朝はナツメが作ってくれるのだが、朝一番の衝撃で、目が覚めて体もしっかりと起動したのかもしれない。それに考えてみたら、昨日はお昼を少し食べただけだ。

(なんだか私、すごくお腹が空いてるみたいだけど……当然よね)

 ボウルに卵を落とし、牛乳とお砂糖を入れて、レンジで解凍したバゲットを浸す。
 そして冷蔵庫からレタスとハム、キュウリ、玉ねぎ、にんじんを取り出して、適当に刻んだり、スライスしたりする。

 別に蒼佑のために一生懸命に作ったわけではない。

 甘くておいしいフレンチトーストも、盛りだくさんの野菜のサラダも、全部全部、自分のためだ。

< 112 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop