ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「っ……」
葵はサッとスーツから後ずさると、両手でパチンと自分の頬を叩く。
そしてブルブルと頭を振って、蒼佑という邪念を追い出した。
(なに考えてるの、私……)
髪を後ろでひとつにまとめ、キッチンでいつもより丁寧に手を洗い、冷蔵庫を開ける。
いつも朝はナツメが作ってくれるのだが、朝一番の衝撃で、目が覚めて体もしっかりと起動したのかもしれない。それに考えてみたら、昨日はお昼を少し食べただけだ。
(なんだか私、すごくお腹が空いてるみたいだけど……当然よね)
ボウルに卵を落とし、牛乳とお砂糖を入れて、レンジで解凍したバゲットを浸す。
そして冷蔵庫からレタスとハム、キュウリ、玉ねぎ、にんじんを取り出して、適当に刻んだり、スライスしたりする。
別に蒼佑のために一生懸命に作ったわけではない。
甘くておいしいフレンチトーストも、盛りだくさんの野菜のサラダも、全部全部、自分のためだ。