ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
(もーっ……私お風呂入ってないのに……)
なんとなく抱き締められたときに、首筋から匂いを嗅がれた気がした。自意識過剰かもしれないが、恥ずかしすぎる。
「食べてていいから」
彼が食べている間、葵はシャワーを浴びるつもりだった。
だがそれを聞いて、蒼佑が目を丸くする。
「一緒に食べたい」
その言葉は本心らしい。
彼らしいと言えば彼らしい。だが葵は首を振った。
「――冷めるじゃない。お先にどうぞ」
そして葵はサッと身をひるがえし、バスルームへと向かった。
冷める冷めないはただの言い訳だった。
葵は蒼佑と一緒に食卓を囲みたくなかった。それだけだ。
ナツメと使っているテーブルは、小さなもので、ふたりが向き合うと膝がくっつきそうになる距離なのだ。
そんな近くで、蒼佑と同じものを食べて、向かい合って、声を聞いて、心を揺らしたくない。