ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 彼は自分のようなどこにでもいる女にかかわって、時間を消費するような立場の人間ではないはずだ。

 コポポ……と音を立てて、コーヒーが落ち始める。
 香ばしいいい香りがキッチンに広がっていく。

「――コーヒー飲む?」

 葵は、穏やかに尋ねる。

 たぶんそれは、彼に再会して一番、穏やかな気持ちから発した言葉だったかもしれない。

 だが次の瞬間。
 葵の体は背後からきつく、抱きしめられていた。

「っ……!?」

 まったく気が付かなかった。

 大きな手が、背後から葵の肩をつかみ、もう一方の手は、腰のあたりをがっしりとつかんでいる。

 葵はなんとか肩越しに振り返ろうと身じろぎするが、覆いかぶさるように抱きしめられているので、ビクともしない。

「ちょっと……」
「この思いが、勘違い?」

 首筋から低い声が響いた。

 まるで地の底から響いてくるような声色に、葵は一瞬気圧される。

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