ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
蒼佑は冗談ぽく言ったが、冗談にならないのがこの男のすごいところだ。
断れば、やはり彼は待ち伏せするだろう。
想像しただけで、勘弁してくださいと謝りたくなる。
「そ、そうね。それはちょっと困るし……」
葵はしどろもどろになりながら、携帯番号を口にした。
「わかった。ありがとう」
蒼佑は口の中で何度か数字をそらんじて、ホッとしたような笑顔になる。
「覚えたの?」
「ああ。大丈夫、覚えた。あとで登録しておく」
蒼佑は重い荷物をおろしたと言わんばかりのゆったりとした笑顔を浮かべ、それから名残惜しそうに手を離し、ドアノブに手をかける。
「ありがとう、葵」
そして彼は、ゆっくりとドアをあけて、静かに出て行った。
一瞬開け放ったドアの向こうから、さわやかな風が吹き込んで、葵の長い髪を揺らした。
今日、この朝から、なにかが変わっていく気がした。
(私、どうなるんだろう……?)
それがまだなにかわからないながらも、葵はその変化を、確実に感じていたのだった。