ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
たとえば君が恋をするとして。
それから十日ほど、表面上は穏やかな日々が続いた。
蒼佑は仕事が忙しいらしい。おはようとおやすみの電話がかかってくる以外は、以前と変わらない生活が戻ってきたようだった。
(そうよ、これが私がもとめていた普通の日々よ)
蒼佑は葵と普通に会話ができるだけでも嬉しいらしく、今のところ選択を迫られないという余裕もあった。
正直言って、蒼佑のことを好きか嫌いか。自分でもよくわからない。
この先、どうなるか。
長く恋を忘れていたから、どんな気持ちが恋なのかわからない。
過去の全てをなかったことにしているわけでもない。かといって、今の蒼佑に男としての魅力がまったくないと本人に向かって言い切れるほど、葵は頑なではない。
(もちろんいつかはちゃんと答えを出して、あの人に伝えなければならないのだろうけど……)
すべては葵の気持ちひとつという単純な問題ではないだろうが、とにかく葵は、落ち着いた現状で、とりあえず満足していたのだった。