ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
『もしもし?』
ハンズブリー機能を使っているらしく、ナツメのスマホのスピーカーから、はっきりと蒼佑の声が聞こえてきた。
どうやら通話が繋がってしまったらしい。
(遅かった……)
葵は「はぁ……」とため息を吐いて、スマホを取り上げるのをやめ、ナツメの隣に腰を下ろすしかなかった。
「あ、こんばんは。天野さん、今大丈夫ですか?」
一方ナツメはにっこりと笑って、会話が聞き取りやすいように、スマホをヘッドボードの上に置いた。
『大丈夫だよ。でもどうしたの、こんな時間に。なにか困ったことでもあった?』
彼が言うように、気が付けば時間はすでに夜の十時を過ぎていた。それほど親しくない大人に電話をかけるには、遅い時間だ。
「ううん、全然。ごめんなさい」
『いや、謝らなくていいよ。君からの電話は嬉しいし』
そういう蒼佑の声は、とても穏やかで丁寧だった。
相手が葵の弟だからというわけではない。誰が相手でもそうなのだろう。人となりがわかる、優しい声だった。