ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 ナツメがなぜ電話をしてきたのか、葵の声を聞いて、瞬時に把握したようだった。

「まぁ、そんな感じで……本当にごめんなさい」

 蒼佑に見えるわけでもないのに、膝に手を乗せて頭を下げる。そんな姉の態度を見て、隣に座っているナツメが、「えー」と不満そうに唇を尖らせたが、肘でこづいて、首を振った。

(さて、どうやってあとはデートを断るかだけど……)

 きっと蒼佑はあれやこれやと理由をつけて、一緒に行くと言うに違いない。
 葵は緊張しつつ、彼の返事を待つ。
 だが、蒼佑から帰ってきた言葉は、葵の想像とはまるで散っていた。

『ナツメ君、誘ってくれてありがとう。でも無理強いはもうしないと決めたから、その気持ちだけもらっておくよ。仕事、頑張ってね』

(え!?)

 まさかの返答に、葵の目が点になった。
 正直言って、蒼佑のほうから断られる可能性は、まったく考えて居なかったのだ。こうなるととんだ肩透かしである。

「そっかぁ……わかった。天野さん、無理言ってごめんなさい。おやすみなさい」
『うん、おやすみ』

 そして通話は切れてしまった。

「――」

 葵はなんだか不思議な気持ちになりながら、目線を落とす。

(そっか……でも別にいいんだけど……ふぅん……)

< 145 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop