ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
ナツメがなぜ電話をしてきたのか、葵の声を聞いて、瞬時に把握したようだった。
「まぁ、そんな感じで……本当にごめんなさい」
蒼佑に見えるわけでもないのに、膝に手を乗せて頭を下げる。そんな姉の態度を見て、隣に座っているナツメが、「えー」と不満そうに唇を尖らせたが、肘でこづいて、首を振った。
(さて、どうやってあとはデートを断るかだけど……)
きっと蒼佑はあれやこれやと理由をつけて、一緒に行くと言うに違いない。
葵は緊張しつつ、彼の返事を待つ。
だが、蒼佑から帰ってきた言葉は、葵の想像とはまるで散っていた。
『ナツメ君、誘ってくれてありがとう。でも無理強いはもうしないと決めたから、その気持ちだけもらっておくよ。仕事、頑張ってね』
(え!?)
まさかの返答に、葵の目が点になった。
正直言って、蒼佑のほうから断られる可能性は、まったく考えて居なかったのだ。こうなるととんだ肩透かしである。
「そっかぁ……わかった。天野さん、無理言ってごめんなさい。おやすみなさい」
『うん、おやすみ』
そして通話は切れてしまった。
「――」
葵はなんだか不思議な気持ちになりながら、目線を落とす。
(そっか……でも別にいいんだけど……ふぅん……)