ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
蒼佑の右隣に座っている彼の名は、南条瑞樹(なんじょうみずき)という。南条ホールディングスという、歴史ある金融系大企業の御曹司で、かつてはグループ子会社の南天百貨店で働いていたこともある。だが基本的には本社勤務だったため、売り場の契約社員である葵からしたら、ほぼ知らない存在だ。
「よく、やったのかな……?」
そんな瑞樹を見て軽く首をかしげるのは、蒼佑の左に座っている甘やかな王子様系で、神尾閑(かみおしずか)という。職業は弁護士だ。
蒼佑と、瑞樹、閑は、学生時代からの友人で、三十を過ぎた今でも、付き合いがある。
今回の話題の中心は当然、帰国したばかりの蒼佑だった。
最初は真面目に仕事の話をしていたはずが、プライベートの話題になり、基本的に自分のことを話さない蒼佑の口から、かつての婚約者に再会したこと、そしてもう一度やり直したいと思っている、という発言が出てしまったばかりに、「その話くわしく!」と、男ふたりの格好の餌食になってしまったのだった。