ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 たとえば葵が恋をするとして――。

 その相手をどうにか自分にしたいと思ったら、本性を知られるわけにはいかないのだ。
 だから晴れて正式に婚約者となってからも、蒼佑は理性を総動員して、葵を真綿でくるむように大事にした。

 子供のようなキスをしながら、いつか彼女が自分の妻になる日が来たら、思う存分、愛するのだと、ただそれだけを楽しみにして生きていたのだ。




 ――カラン。

 持っていたグラスの氷が、解けて音を立てる。

(葵にしたら、災難でしかないだろうな……)

 蒼佑はふっと唇をほころばせて、今までの葵の泣いたり怒ったり、悲しんだりする表情を、思いだしながら、ウイスキーに少しだけ唇をつける。

 再会してからの自分の変わりように、葵を驚かせてばかりだったと思う。

 だが蒼佑は、本当はなにも変わっていなかった。
 葵に執着し、ただ彼女一人を求めて、ずっとずっと、誰よりもまとものふりをしながら、偏執的に葵を思っていた。ただそれだけのこと。

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