ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「なっちゃん?」

 だが通話はすぐに切れてしまった。
 到着の報告を下だけなのに、なぜ、ナツメのマネージャーである大内が、自分を呼びに来るのだ。

「どうしたんだろう……」

 首をひねっていると、しばらくして、女の子たちの人込みをぬうようにして、グレーのスーツに身を包んだ、銀行マンのような雰囲気の大内が、いそぎ駆け足で走ってくるのが見えた。

「あ、大内さん! こっちです!」

 葵が手を振ると、十メートルほど離れた彼は口元に人差し指を当てる仕草をした。

 よくある“お静かに”のポーズだ。

 だがここには三千人の女の子がいて、きゃあきゃあと盛り上がっている。自分の声が周囲に迷惑をかけるようなことはないはずだ。

 葵は不思議に思いながら口をつぐみ、駆け寄ってくる大内を待つ。

 そして、ようやく葵の前にたどり着いた大内は、ハァハァと肩で息をしながら、深々と頭を下げた。

「楽屋から走ってきたものですからっ……はぁ、はぁ、す、すみませんっ……」
「いえ、全然。大丈夫ですか?」
「はいっ……いや、もう俺も年だなって……はぁ……」

< 163 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop