ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「なっちゃん?」
だが通話はすぐに切れてしまった。
到着の報告を下だけなのに、なぜ、ナツメのマネージャーである大内が、自分を呼びに来るのだ。
「どうしたんだろう……」
首をひねっていると、しばらくして、女の子たちの人込みをぬうようにして、グレーのスーツに身を包んだ、銀行マンのような雰囲気の大内が、いそぎ駆け足で走ってくるのが見えた。
「あ、大内さん! こっちです!」
葵が手を振ると、十メートルほど離れた彼は口元に人差し指を当てる仕草をした。
よくある“お静かに”のポーズだ。
だがここには三千人の女の子がいて、きゃあきゃあと盛り上がっている。自分の声が周囲に迷惑をかけるようなことはないはずだ。
葵は不思議に思いながら口をつぐみ、駆け寄ってくる大内を待つ。
そして、ようやく葵の前にたどり着いた大内は、ハァハァと肩で息をしながら、深々と頭を下げた。
「楽屋から走ってきたものですからっ……はぁ、はぁ、す、すみませんっ……」
「いえ、全然。大丈夫ですか?」
「はいっ……いや、もう俺も年だなって……はぁ……」