ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「――えっ?」

 言葉の意味を理解した瞬間、全身にゾッと悪寒が走った。

「どういうことですか?」
「ファンレターを装っていたので、今まで気が付かなかったんですが、事務所に届いてたものを今朝ナツメが発見して……」

 そして大内は渋い表情のまま、ドアノブに手をかけて控室の一室を開く。

「なっちゃん!?」

 和室の部屋の中に飛び込むと、スタイリッシュなジャケット姿のナツメが部屋の真ん中に立っていた。

 葵はそのまま勢いよく部屋の中に入っていくと、そのまま転びそうになりながら靴を脱ぎ、ナツメに駆け寄った。

「い、い、い、い、今聞いたけど!」
「あー……ごめんね、葵ちゃん。葵ちゃんには念のため帰ってもらおうかと思ったんだけど、ここに来ちゃってるなら、楽屋の中の方が安心かと思って。まぁ、誰も葵ちゃんが俺の姉だなんて、知らないからいいんだけどさ」

 ナツメは苦笑して、それから手に持っていた可愛らしい封筒を、大内に手渡した。

 あれが噂の脅迫状なのだろうか。それともただのファンレターなのだろうか。葵はハラハラしながら、ぐっとこぶしを握る。

< 165 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop