ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
この部屋には、自分以外の誰かがいたようだ。
恐る恐る目を開けると、黒髪を乱したスーツの男が枕元に立っているのが、目に入った。
「――あ、の……」
「俺のこと、わかる?」
そう尋ねる蒼佑は、ひどく憔悴していて、いつもきれいに整えられている髪は乱れ、目の下にはうっすらとクマがあった。三つ揃えだがタイは外されている。そして過去にも最近でも見たことがなかった、無精ひげまで生えていた。
(この人も、普通に生きてる人間なんだな……当たり前だけど……)
そんなことをぼんやりと思いながら、
「――うん」
葵はゆっくりとうなずいた。
ちなみにあなたのことを忘れたと言ったらどうなるだろうと一瞬思ったのだが、さすがにそれは悪趣味が過ぎると、やめたのだった。
だが蒼佑は、重ねて問いかける。
「じゃあ俺はどんな人間か、言える?」
「どんなって……八年前、私の婚約者だった人で……。今は、私の事をなぜか追いかけまわす、変な人……かな」
「――正解」