ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

『葵(あおい)ちゃん、仕事終わったら迎えに来てくれない?』

 きっかけは弟――棗(なつめ)からの一本の電話だった。

 今日の夕食は何が食べたいのか、そもそも自宅で食べるのか、それとも仕事先で、スタッフと一緒に食べて帰ってくるのか、都度、言われなくても連絡してくる出来た弟は、高校生ながらモデルの仕事をしている。

 だが、今日、この日は、葵の仕事帰りを見計らったように電話をしてきて、迎えに来てほしいと言う。

「なっちゃん、まだ六時じゃない。どうしたの」

 確か今日は、撮影だと言っていたはずだ。遅い時は当然スタッフに送ってもらうので、迎えに来てという発言を不思議に思った。

 葵は腕時計に目を落としながら、改札前で立ち止まる。

 季節は春――。
 桜が散って十日ほど経つ。
 どこから飛んできたのか、駅の構内にはちらちらと桜の花びらが落ちていた。

(なにかあったのかな……?)

 そんなことを気にしながら、葵は桜の花びらを踏まないように、駅構内の通路の端に寄った。

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