ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「あなたはもう、蒼佑の許嫁ではないでしょう……?」
「そうですね。おじいちゃんも、もういませんから」
葵の言葉に、りか子は目を見開いたが、淡々とした葵の態度に、どこかホッとしたように、うなずいた。
「ええ……そう。あの時、椎名先生が引退されなければ、話は変わっていたと思うわ。引退はやめるように、主人も何度も申し上げていたと思うのだけれど……。でも、先生は静かな生活をお選びになった。雲隠れされるようにご家族で身を隠して……。夫は悔しがっていたわ。国の損失だとまで言っていたわ。先生をとても尊敬していたから……。それは蒼佑も同じね」
そしてりか子は、テーブルの上に手を置いて、まっすぐに葵を見詰めた。
「きっと、お互い、懐かしい気持ちになったんでしょう。わかるわ。そういうこと、あるわよね。でもね、そこまでにして欲しいのよ」
「――そこまで?」
「恋愛と結婚は別ってこと……」
静かに、さらさらとそんなことを口にするりか子に対して、葵は軽く、戸惑いすら覚えた。
彼女は葵に口を挟む余地を与えようとしない。