ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「葵さん、昔は素直でとてもいい子だったのに……!」

 りか子のその言葉は、まさに本音だった。

 彼女が知っている【素直でいい子の葵】なら、もっともらしい言葉で言い聞かせれば、引いてくれると思ったのだろう。――八年前のように。
 だが葵は少しだけ大人になった。
 たくさん傷ついて泣いた分、ほんの少しだけ、大人に。

「――もうお話しすることはなさそうね」

 りか子はその場にすっくと立ちあがると、「失礼するわ」と、足早に部屋を出て行く。

「あ……っ」

 慌てて葵もその後を追う。

 葵だって、険悪なままでこのまま別れたいとは思わない。できればもう少し、現状について話がしたかった。
 それにそもそも、葵と蒼佑は付き合ってなどいない。葵は自分の気持ちを、彼に伝えてなどいないのだから。

 だが、ふらつく体ではりか子を引き留めることはできなかった。ようやく追いついたところで、りか子は戸に手をかけていた。そして振り向きざまに、

「お見合いの話が来てるのよ……。とってもいいお話。あなたの気持ちがどうあれ、あの子の将来を、邪魔しないでちょうだいね」

 と言い放ち、がらりと戸を開けて、出て行ってしまった。
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