ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「ただいまー」
そうやって、かろやかにキッチンに入ってきた蒼佑を見て、葵は心臓がドキリと跳ねる。
彼の表情に、朝となにか違うものがあるのではないかとじっと観察したが、何の陰りもなかった。ナツメの顔を見て、「いらっしゃい」と微笑む蒼佑の端整な顔に憂いはない。いつもの穏やかで優しい蒼佑だ。
(よかった……おばさまにはなにも言われてないみたい)
蒼佑が葵を思っているということは、母親としては目を逸らしたい事実かもしれない。自分の息子に限ってと思いたい気持ちも理解出る。
そして、葵にあれだけのことを言っておきながら、蒼佑を屋敷に帰したのは、蒼佑が強く反発することを恐れたのかもしれない。
『君を失うなら、後を追って死ぬ』と迷いなく口にする彼には、普通の人間には到底理解できないような、謎の意志の強さがあるように思う。
「おかえりなさい」
「葵」
声を掛けると、蒼佑は真面目な顔になって、そのままグイグイと葵に近づき、両腕を広げ、いきなり正面から抱きしめてしまった。