ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「安心して。不埒(ふらち)なことはしないから。君の療養のために行くわけだし」
「ふ、不埒!?」

 蒼佑の言う不埒とはいったいどういうことなのか。なんとなく想像できるが、先回りして言われることで、余計葵の想像を刺激する。
 当然、かつてかわしたキスのことを思いだして、顔が真っ赤になってしまった。

「意識した?」

 蒼佑がからかうようにささやく。

「い、意識なんてしてませんけどっ……?」

 おそらくバレバレに違いないが、葵は必死に誤魔化そうと足早に玄関の戸を開ける。だが次の瞬間、つま先が玄関引き戸レールにひっかかってしまった。

「あぶないっ!」

 蒼佑が後ろから葵のウエストに腕を回し、抱き寄せる。
 背中から蒼佑の心臓の鼓動が伝わる。
 ドキドキ、とびっくりするくらい跳ねている。

「ご……ごめんなさい……」

 とっさに謝罪の言葉を口にしていたが、蒼佑はふうっと息を吐いて、両腕を葵のウエストに回し、そっと抱きしめた。

「いや、俺がからかったから。ごめん」
< 229 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop