ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 そう言いながら、葵のこめかみに唇を寄せささやいた。

「温泉の件、もちろん葵の療養が第一なんだけど、俺がただちょっと……一緒に旅行できたら嬉しいなっていうか……。だから無理にとはいわない。ごめん」

 そんな風に、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする蒼佑に、葵はふとナツメに言われた、

【自分の存在が誰かを幸せにしてるんだってこと、認めてもいいと思うよ】

 という言葉を思い出していた。

(誰かを幸せに……私が?)

 葵はドキドキしながら、右手を持ち上げて、蒼佑の手の甲の上に重ねる。
 瞬間、蒼佑はかすかに身じろぎする。
 葵から触れた指先の感覚に、たったそれだけのことではあるが、驚いたのかもしれない。

「い……行きます」
「ほっ……本当に!?」

 背後で、聞いたことがないくらい動揺した声が響く。

「うん……」
「や、やった……嬉しい、ありがとう! いや、これは旅行って言うよりも、まず葵の療養が第一だから、それはその、忘れないようにしてるから……!」

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