ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 蒼佑がブレーキを踏んで、エンジンを切る。

「えっ、もう?」

 蒼佑の言葉に、助手席から窓の外を眺めていた葵は、ハッと我に返った。

「ああ。葵が車に疲れなくてよかった」
「それは……あなたが気を使って運転してくれたから。ありがとう」
「どういたしまして」

 蒼佑はにっこりと笑って、先に車を降りると、葵のためにドアを開ける。
 実際、東京をゆっくりしたペースで出て、三時間半。あっという間だった。

「うーん!」

 葵は車から降りて、両腕を上にあげ、背筋を伸ばす。

 目的地の宿《山むら》は、南房総の内海の目の前、海岸線を見渡せる、三部屋しかない高級旅館である。すべてが離れで、それぞれに露天風呂が付いており、全室オーシャンビューになっている。
 チェックインを済ませて、女将の挨拶とともに客室へと向かい、葵は部屋の中に足を一歩踏み入れて、「わぁ……」と息を飲んだ。

 まず入り口には、障子でしきられている、洋室のベッドルームがあった。中をのぞくと、ふかふかの羽毛布団の、ツインのベッドが置かれている。
< 236 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop