ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
(最低、最低っ、さいっていっっっっっ!!)
全身が怒りに包まれていた。
感情をどう制御していいかわからない。
ただ嵐のような激情に身も心も支配されてしまった。こうなったら大人しく、それが通り過ぎるのを待つしかない。
葵は、胸のあたりをぎゅっとつかんで、目を閉じる。
「……最低っ……」
愛してるなんて、絶対に聞きたくなかった。
昔と同じ声で『葵』と呼んでほしくなかった。
(許さない……私は、あの人を許していない……!)
どうしても忘れられないなら、彼を憎むしかない。目の前にいない男のことを心の中で恨むのは、自分だけの問題だ。誰かを傷つける行為ではないと、葵は自分に許してきた。
そうやって、この八年間、心の折り合いをつけてきたというのに、当事者である本人が目の前に現れて、やりなおしたいと言う。
一方的に、また葵は振り回されているのだ。
死んだほうがマシだと思うくらいの失恋は、葵を臆病にし、一方で、心を守るための、頑丈な殻を作った。
(冗談じゃない……もういやよ、絶対にあんな苦しみを味わいたくない……)
強気な葵の目に涙が浮かぶ。
「絶対にいや……」
そのまま葵は、膝に顔をうずめ、泣き出してしまった。