ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
強引な求愛
どのくらい時間が経っただろう。
バッグの中のスマホから呼び出し音が聞こえる。
取り出してみると、ナツメからだった。
おそらく仕事が終わったのだろう。だとしたら、取らないわけにはいかない。葵は一度深呼吸をしてから、通話ボタンをタップする。
「――はい」
【あ、葵ちゃん? 大丈夫、具合が悪くなって帰ったって聞いたけど】
大内はナツメにそのように説明してくれたらしい。何も知らない電話の向こうの弟の声に、涙腺が緩む。
「大丈夫……ごめんね。つれて帰るって約束したのに」
【ああ、それね。気にしなくていいよ。実はさ、ここだけの話だけど……HFの偉い人が、間に入ってくれて、さりげなーく、断ってくれたから。俺が乗り気じゃないの、わかってくれたみたい】
「……偉い人?」
心臓がドキリと跳ねる。
あの場で偉い人といえば、ひとりしか思いつかない。
【営業本部長だって。取締役だとか言ってた。偉い人でしょ? つか、めっちゃイケメンだった。あの場で誰よりも顔がいいじゃんと思って、俺、ビックリした】