ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
ナツメは、椎名家の没落の歴史を知らない。知り合いや、親類縁者との縁もすべて切り、慎ましく自然豊かな熊野で生きてきたため、祖父が元政治家だったということも知らない。
両親も葵も、ナツメにわざわざそんなことは知らせなくていいと、思っている。
全て終わったこと、過去のことだからと――。
葵は握りしめていたスマホから、大内に電話を掛ける。
すぐに通話が繋がり、葵は一方的に、まくし立てていた。
「大内さん、あの、今ナツメから電話があって! HFとの食事、断れないですか!?」
【――】
スマホの向こうから息を飲む気配がして、
【少々お待ちください。場所を移動いたします】
と、控えめな声が返ってきた。
そしてコツコツと廊下を歩く音がする。少し息を飲んだ気配がして、大内が口を開いた。
【葵さん。その、プライベートなことに口を挟むつもりはないのですが、要するに、HFの、天野さんとは少々因縁があるということでしょうか】
実に大内らしい回りくどい口ぶりだが、確かに因縁と言えば因縁だろう。