ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
都内の老舗、南天(なんてん)百貨店で働く椎名葵(しいなあおい)は二十六歳、少し年の離れた弟のナツメは、十六歳である。
両親は海外におり、ふたりは都内の2LDKのマンションで二人暮らしをしている。
『うん、それがさ~聞いてくれる?』
電話の向こうのナツメが、軽くため息をつく。
あまり落ち込んだりするタイプではないので、珍しい。
詳しく聞いてみると、どうやら撮影のスタジオに広告代理店のお偉いさんが娘を連れて見学に来たらしく、『撮影が終わったら、一緒に食事に行きたい』と言われて、困っているのだと言う。
『娘が俺の大ファンなんだって。ファンだったら、俺の嫌がることは遠慮してくれたらいいのに……なんで食事になんか行きたがるんだろう』
結構な言いようだが、とはいえこちらから、ハッキリ断れる相手ではない。
所属しているモデル事務所は、大手の事務所ではない。稼ぎ頭のナツメを大事にしてくれるが、それとこれは話が別だ。大手ではないので、余計断りにくいのだろう。こうなったら使えるのは、保護者権限だけということになる。