ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
シブヤの雑踏の奥、目的のビルの下から、ナツメのマネージャーをしている大内に電話を掛けると、すぐに下まで迎えに来てくれた。
「葵さん、すみません、お手数かけて」
大内は、三十代半ばの男性で、見た目は銀行マンといったような、固い雰囲気なのだが、一年前にナツメを渋谷でスカウトした張本人でもある。
ナツメは過去、町を歩くたび名刺が束になるくらいスカウトされていたのだが、真面目に話を聞いて、入ると答えたのはこの大内だけだった。
話を聞いた当初、葵は、なぜこの小さな事務所に?と思ったが、ナツメは「あそこじゃなきゃいやだ」とまで言い切った。きっと自分にはわからない、この人と仕事がしてみたいと思わせる、パワーのようなものがあるのだろう。
なにより、青春を傾けていた陸上を、怪我でやめたナツメが、初めてやりたいといったのがモデルという仕事なら、自分は応援するしかない。
それ以来葵は、学業とモデルの仕事を両立するナツメを、フォローしている日々だ。
「大丈夫ですよ。事務所やなっちゃんが、断りにくいのもわかりますし」
葵はにっこりと笑って、首を振る。
それを聞いて、大内はホッとしたように笑い、銀縁眼鏡の縁を指で押し上げた。