ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
ひどいことをしていることは百も承知だ。けれど葵はただ、これ以上苦しみたくなかったのだ。
なのに彼から返ってきたのは――。
「わかった」
怒っているわけでも、あきれているわけでもない、ただシンプルな肯定の言葉で。
(……は?)
空耳かと思いながら顔を上げると、長身の蒼佑が、膝を折り、その場にひざまずことしているまさにその場面で。
彼の美しい手のひらが、指先が、ためらいもなく、汚れた床のコンクリートに触れそうになるのを見て、葵の頭のてっぺんに雷が落ちたような気がした。
皮膚の表面が粟立ち、全身に鳥肌が立つ。
「な、なにしてるの……!?」
とっさに葵は、両手で蒼佑の肩をつかみ、そのまま車へと押し付けていた。
いつもなら、華奢な葵が突き飛ばしたところで蒼佑はびくともしないはずだが、さすがにバランスを失い、ふたりして、もつれるようにして車のドアに体がぶつかる。
葵も勢いあまって、その場に転びそうになった。