ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
ただ、苦しい。
「あっ、あなたは、私に言われたら、なんでも、するのっ!?」
「する」
そんなことを即答しないでほしいと思った葵だが、蒼佑は淡々と落ち着いた様子で、体を起こし、大きな手のひらで、上等なスーツについた埃を払っていく。
「でも、それは葵だからだ。ほかの人間に言われたら、しない。いや、そもそもそんなことを言わせる俺じゃない。葵だからだ。ほかの人間なら縦横八等分に切り刻む様な屈辱でも、葵なら――」
「もういいわ」
これ以上、蒼佑に口を開かせるとなにを言われるか、たまったものではない。
いや、売り言葉に買い言葉で、葵がどんな無茶ぶりをしても、この男はやりかねない。こうなると、至極一般的な常識を持ち合わせた自分が、負けるに決まっているではないか。
葵は、半ば絶望しながら、口を開いた。
「――どうしたら私のこと、諦めてくれるの」
それは間違いのない、本音だった。
数時間前まで、逃げればなんとかなるかもしれないと思っていた自分が、馬鹿にしか思えない。