ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 一方的だ、自分勝手だと、いくら罵ったところで、蒼佑は『そうだな』と肯定するだけだろう。それは再会してからずっと変わらない。

(なんだか、疲れたな……)

 普段は、あまり感情の起伏もなく、日々を過ごしていた葵からしたら、この数日は心身ともに疲労が押し寄せてくる怒涛の日々だった。

 急激に、体から体力が奪われていく気がした。

「――葵、傘は?」
「持ってないけど……」
「降り出したみたいだ。車で送らせて」

 胸元からスマホを取り出して、蒼佑がつぶやく。

「――いいです。電車で帰るので」

 葵はそのまま首を振り、彼の言葉を待たず、エレベーターに向かって身をひるがえした。

(でも……いくら頑張られたところで、私は恋になんか、落ちない。誰とも……落ちないわ)

 背中に蒼佑のすがりつくような視線を感じたが、葵はそれを振り切り、まっすぐに歩いて行った。


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