ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「あなたとこの子の間には何かしらの論点があって、あなたはこの子に理解を求めているんでしょう。でもこの子は理解したくない。ただあなたを忌避する問題として、決めつけている。だから逃げ回る。そしてあなたは追いかける。どちらかが諦めない限り、終わらないし、終わるころにはどっちも疲弊している、最終的に、よくないことになるかもしれないわね。そんなふたりの間に必要なのは、コミュニケーション。よく話すこと、相手の言葉に耳を傾けることだと思ったのよ。で、【交渉】って言葉を出せば、この子の興味を引けると思ったし、実際、多少は耳を傾けるかと思ったの」
渉の言葉に、葵はしてやられたと思ったが、同時に、彼が自分のためを思って、この席を設けてくれた意味が、ようやくわかった。
(私……面白がられている、興味本位だってそればかりだった……)
物事の表面しか見ていない。そう言われても仕方ない。
葵は少し恥ずかしくなった。
「――なるほど。俺たちに必要なのは、議論であり、対話か。ぐうの音も出ない正論だ。俺は、どうしても彼女を忘れられなくて……それでなんとかして、自分を見てもらいたい。それだけだったな……」
そして蒼佑も、自嘲するように笑って、それからコトン、とグラスがテーブルにぶつかる音がする。