ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
それに加えて、はぁ、とため息まで聞こえた。
「あの……一応言っておくけど、あたしはなんにも聞いてないわよ。昔の男だって、ただ、それだけ」
「ああ。そうだろう。俺の事なんか、話したくないに決まっている。思いだすのも嫌だろうな」
「あら……あなたも結構、アレね。ふふっ……似ているかもしれないわね?」
そしてグラスの中の氷が、解ける音がした。
「かわいいのよ。葵、少し無理して背伸びしてるところあって、意地っ張りで。でも、頑張り屋さんよ。人が良くて、嘘がつけないわよね。だからあたしはこの子が大好き」
「それは」
「あ、あたしがライバルになり得るのかって、そういうややこしいのはナシね。人として、あたしはこの子を気に入っている。それだけ」
渉は、くすくすとしのぶように笑うと、声を潜めて囁いた。
「ねぇ。あなたのこと、信じていいかしら?」
その問いかけは、優しく、穏やかではあったけれど、もし不手際があったら許さない、そんな気配もあった。
一瞬、テーブルに静寂が訪れる。
だが、その静けさを打ち破る声が、静かに響いた。