ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「同じ過ちは繰り返さない。絶対に」
「――そう。過ちを犯したとわかっているなら、まぁ、見込みはあるかもしれないわね。今の葵のこと、野良猫だと思って、頑張ってかしずいてみたらいいわ」
それから椅子が引かれる音がした。
「いい男が苦悩している顔を見られて、今日は大満足よ。それと、ご馳走様」
「――ありがとう」
そしてコツコツと、遠ざかる靴音が聞こえて――。
誰かが残り、誰かが去ったのだと、葵はぼんやりする頭で、考える。
けれど、その答えはすぐにわかった。
無言で、葵の髪を指ですくい、愛おしそうに髪をかきわけるその仕草は、蒼佑の昔の癖で――。
「葵……過ちは、繰り返さないよ」
決意に満ちた声に、再会してから何度も聞いた、自分の名前を呼ぶ熱っぽい声に、思わず涙腺が緩む。
そのまま涙が溢れ、頬を伝った。自分でもこの涙の理由がわからない。
もう戻れないと思いこんでいた過去が、急に目の前に現れたから、かもしれない。
(もし私が過去に戻ってやり直せるとしたら……どうするかな……)
蒼佑とは二度と恋をしないと、決めるだろうか。
駄目になってしまうのなら、死ぬほどつらい気持ちを繰り返すくらいなら、あのキラキラした日々を経験しないほうが、いいと思うだろうか。
酔いの回った頭では、よくわからなかった。