ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 小一時間ほどウトウトしていると、見慣れた景色が目に飛び込んでくる。

 タクシーは蒼佑の指示通り細い道を入っていき、葵とナツメが暮らすマンションの目の前に停車した。

「足元に気を付けて」

 支払いを済ませた蒼佑が葵のバッグを腕に引っ掛け、それから両腕で葵の体を支えるようにしてタクシーから下ろす。
 走り去るタクシーのエンジン音を聞きながら、葵は顔を上げた。

「もう大丈夫……」

 エレベーターに乗ってしまえば、部屋まで数分だ。

 葵はそのまま体を離して歩き出そうとしたのだが、

「それは嘘だ」

 蒼佑はクスッと笑って、それから葵の腕をしっかりとつかみ、引き寄せる。

「さっきより足にきてるだろう」
「……それは……」

 反論したいが、確かに足ががくがくして、力が入らない。

「お説教するつもりはないけれど、君はすごく弱いんじゃないか? こんなふうにいつも酔ってしまうなら、飲まないほうがいいと思う……君の身の安全のためにも」
「――身の安全?」

< 84 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop