ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 では蒼佑自身は、安全だと言うのだろうか。
 冗談も休み休み言ってほしい。

 葵がふっと笑うと、蒼佑は葵の言いたいことがわかったのだろう。肩を竦めて、「俺ほど安全な男はいない」と、うそぶいた。

「嘘つき……」

 蒼佑の耳に、その言葉は届かない。葵のとっさのつぶやきは、そのくらい小さな声だった。

 再会してすぐに唇を奪われた。
 逃げても逃げても追いかけてきて、ひどい言葉を投げつけられても、まったく諦めない。

(誰が、安全な男よ……)

 そもそも、彼がただの安全な男だったら、こんな風に自分は引きずっていない。

 過去の蒼佑との間には、あえて思いださないようにしていることもあるのだ。

(って、こうやって考えるのがダメなんだから……)

 あの頃の思いを反芻すると、胸が苦しくなる。

 ひっそりと近づいてくる過去の甘いときめきから目を逸らして、仕方なく、蒼佑の肩を借りてエレベーターへと乗り込んだ。

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