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お開きとなり、順番に座敷から出ていく流れの中で、本来主役のはずの湊くんを久しぶりに見かけた。
肉の脂も、摂取したはずのアルコールも亜空間に飛ばしたんじゃないかっていうくらい、表情はいつもと変わらない。
「湊~! ちゃんと肉食べてパワーつけたか~?」
座って靴を履いている湊くんの背中に、ドスッと乗り上げると、私の下でうっ、と苦しげな声がした。
「今井さん、重いから降りて」
「私ひとりくらい運べるパワーはつけてないと。これは審査の一環でーす」
湊くんは私の靴を手に持つと、よいしょ、と強めに言いながらそのまま私を背負った。
「おおおお、すごい! 意外と力持ち! さすが、やればできる男、湊純史朗!」
「出口まで。あとはタクシーで帰って」
思った以上に安心できる背中にうれしくなって、心のままにぎゅううううっと抱きついた。
「い、今井、さん……くるし……」
「あ、ごめん。ついつい愛があふれちゃって」
「酔ってるね」
「お酒飲んで楽しくならないなんて、もったいないじゃない」
「飲んでないときも、いつも楽しそうだけどね」
平日とはいえ、店内の席はほとんど埋まっていた。
その狭い通路を、私を背負って歩くのは恥ずかしいだろうに、仕事をこなすのと変わらない態度で進んでいく。
酔っていても本当は少し恥ずかしかったけど、頬に当たる髪のサラサラという感触と、汗っぽくても不快じゃない首筋の匂いと、心地よい体温を手放す気持ちにはなれなかった。
それでも店を出ると道端にあっさり降ろそうとする。
「いやー! このまま家まで運んでよー」
ストッキングの脚をバタバタ振り回すと、よろめきながらもその衝撃に耐える。
「相手が俺だったとしても、男に送られたりしたら、今井さんの彼は嫌がるでしょう?」
何事にも興味を示さない湊くんが、私の彼の存在を知っていたなんて意外だった。
むしろ指摘されるまで、私の方が忘れていたくらいだった。
けれど、言われてみれば正論なので、しぶしぶ背中を降りる。
十二月のアスファルトはとても冷たくて、「つけてる感じがしない素足感覚ストッキング!」の足裏を苛む。
さっきまでポカポカしていたのに、どこもかしこもひんやりしてしまった。
そんな私の前に湊くんが靴を並べてくれるから、仕方ないので肩を借りて、軽く足の裏を払ってからそれを履いた。
「意外と常識的なこと言うんだね。湊くんが私の彼に配慮するなんて思わなかった」
湊くんをけなすような軽口はしょっちゅうで、本人もたいていは受け流すか言い返してきていた。
だからこのときも、いつもと同じように流されると思っていた。
「俺だって……普通の人間なんだよ」
行き交う車のライトの流れを見つめながら、湊くんはポツリとそう言った。
顔を背けていたけれど、キュッと唇を噛んで。
からかい過ぎたのだろうか。これまでもずいぶん失礼なことを言ってきたけど、知らず傷つけていたのだろうか。
酔った頭では正しい答えにたどり着けなくて、私はなすすべなく湊くんの横顔を見つめていた。
サッと手を上げて止めてくれたタクシーに乗り込むとき、湊くんの顔を正面から見上げたけれど、
「明日、遅刻するなよ」
と、いつもの呆れ顔で言うから、私はホッとして、さっきの不安な気持ちはすっかり忘れて手を振った。
肉の脂も、摂取したはずのアルコールも亜空間に飛ばしたんじゃないかっていうくらい、表情はいつもと変わらない。
「湊~! ちゃんと肉食べてパワーつけたか~?」
座って靴を履いている湊くんの背中に、ドスッと乗り上げると、私の下でうっ、と苦しげな声がした。
「今井さん、重いから降りて」
「私ひとりくらい運べるパワーはつけてないと。これは審査の一環でーす」
湊くんは私の靴を手に持つと、よいしょ、と強めに言いながらそのまま私を背負った。
「おおおお、すごい! 意外と力持ち! さすが、やればできる男、湊純史朗!」
「出口まで。あとはタクシーで帰って」
思った以上に安心できる背中にうれしくなって、心のままにぎゅううううっと抱きついた。
「い、今井、さん……くるし……」
「あ、ごめん。ついつい愛があふれちゃって」
「酔ってるね」
「お酒飲んで楽しくならないなんて、もったいないじゃない」
「飲んでないときも、いつも楽しそうだけどね」
平日とはいえ、店内の席はほとんど埋まっていた。
その狭い通路を、私を背負って歩くのは恥ずかしいだろうに、仕事をこなすのと変わらない態度で進んでいく。
酔っていても本当は少し恥ずかしかったけど、頬に当たる髪のサラサラという感触と、汗っぽくても不快じゃない首筋の匂いと、心地よい体温を手放す気持ちにはなれなかった。
それでも店を出ると道端にあっさり降ろそうとする。
「いやー! このまま家まで運んでよー」
ストッキングの脚をバタバタ振り回すと、よろめきながらもその衝撃に耐える。
「相手が俺だったとしても、男に送られたりしたら、今井さんの彼は嫌がるでしょう?」
何事にも興味を示さない湊くんが、私の彼の存在を知っていたなんて意外だった。
むしろ指摘されるまで、私の方が忘れていたくらいだった。
けれど、言われてみれば正論なので、しぶしぶ背中を降りる。
十二月のアスファルトはとても冷たくて、「つけてる感じがしない素足感覚ストッキング!」の足裏を苛む。
さっきまでポカポカしていたのに、どこもかしこもひんやりしてしまった。
そんな私の前に湊くんが靴を並べてくれるから、仕方ないので肩を借りて、軽く足の裏を払ってからそれを履いた。
「意外と常識的なこと言うんだね。湊くんが私の彼に配慮するなんて思わなかった」
湊くんをけなすような軽口はしょっちゅうで、本人もたいていは受け流すか言い返してきていた。
だからこのときも、いつもと同じように流されると思っていた。
「俺だって……普通の人間なんだよ」
行き交う車のライトの流れを見つめながら、湊くんはポツリとそう言った。
顔を背けていたけれど、キュッと唇を噛んで。
からかい過ぎたのだろうか。これまでもずいぶん失礼なことを言ってきたけど、知らず傷つけていたのだろうか。
酔った頭では正しい答えにたどり着けなくて、私はなすすべなく湊くんの横顔を見つめていた。
サッと手を上げて止めてくれたタクシーに乗り込むとき、湊くんの顔を正面から見上げたけれど、
「明日、遅刻するなよ」
と、いつもの呆れ顔で言うから、私はホッとして、さっきの不安な気持ちはすっかり忘れて手を振った。