gift
あの頃の私は、湊くんがどんな気持ちでいるのかなんて考えていなくて、いつも変わらない無表情で許してくれることを、当たり前に思っていた。
きっと「ありがとう」も「ごめんなさい」も、ほとんど言ったことがない。
高尚ではないありふれたあの日々が、どれほど儚く貴重であるかなんて気づきもしなかった。
あの言葉の意味に、「普通の人間」という言葉に、湊くんがどんな気持ちを込めていたのかを知るのは、まだまだずっと先の話。
「明けない夜はない」というけれど、誰しもが夜明けを望むものだろうか。
少なくとも私は、毎朝カーテンの隙間から差し込む明かりを、忌々しく思っている。
あたたかくやさしい夜は、居心地がよく離れがたい。
私は毎日楽しかったけれど、湊くんにとってあの日々は、瞼を閉じても突き刺さってくる光のように、つらいものだったのかもしれない。