gift
「見た目は悪いけど、味は一緒でしょ?」
「見た目は味に影響するんだよ」
言い争う私たちの間を割って、家主である岩本さんが私のボロ布ケチャップライスを自分の方に引き寄せた。
「俺は気にしないよ、見た目なんて。味さえおいしければ」
岩本さんはとっっってもいい人なので、今は誰も気づいてないけど、いつかきっとモテると思う!
感動に涙を浮かべる私の隣で、湊くんは岩本さんのボロ布ケチャップライスをきれいなオムライスとすり替えた。
同時に「私のオムライスが食べられないっていうの?」と怖い声で美里さんが岩本さんにお皿を押しつける。
「先輩に無理させるわけにいきません。同期なので俺が処理します」
湊くんはきっぱりと言い切り、「いただきます」と手を合わせてから、さっさと処理に入ってしまう。
「あやめちゃんはこっち食べる?」
美里さんがきれいなオムライスを差し出してくれる。
「お気遣いありがとうございます。余計に悲しくなるので、自分のを処理させてください」
がっかりしたせいなのか、具が魚肉ソーセージだけだからなのか、包み方が悪かったからなのか、おいしいオムライスではなかった。
「でも食べられなくはないね」
最大限のプラス思考に、湊くんも一応うなずいてくれた。
「ケチャップの味だからね」
「オムライスなんてケチャップの味でしょ!」
「できないなら挑戦しなきゃよかったのに」
文句しか言わないくせに、湊くんは一粒のご飯も卵片も残さずきれいに食べてくれた。
「失敗したのは結果論でしょ? 最初からできるってわかってるなら、それは“挑戦”とは言わないじゃない!」
その挑戦をなぜこのタイミングでしたのか、という反省点は残るのだけど、私は堂々と言い切った。
本当は湊くんの空っぽのお皿に気持ちを救われていても、素直に感謝するのは悔しい。
どうせまた憎まれ口を叩いてくるだろうと思いながらケチャップライスを口に運んでいると、湊くんは、
「ああ、本当だ! 本当にそうだね」
と、聞いたこともないような明るい声で笑って言った。
私は口においしくないケチャップライスを含んだまま、その希少な笑顔に見入ってしまう。
「湊くんが笑うの初めて見たかも」
美里さんも笑顔で湊くんを見つめている。
「今の会話のどこに笑いのツボが?」
岩本さんは怪訝な表情をしていた。
話題の中心になってしまったことが恥ずかしかったのか、湊くんはせっかくの笑顔を引っ込めて、コーヒーカップで顔を隠してしまう。
あのころから、湊くんはよく笑うようになった。
元々表情豊かなタイプではないから他の人に比べると少ないけれど。
私は、湊くんの心境に大きな変化があったことなど当然知るはずもなく、
「笑顔くらい減るものじゃないんだから、出し惜しみするな!」
と、またきつい調子で言ってしまったのだった。