gift
(なんとかして)
湊くんが視線で訴えてくるので、私はわざとらしいほどの大きな拍手で存在をアピールした。
「み、美里さーん、岩本さーん、ご婚約おめでとうございまーす! あ、そういえば湊くんって明日誕生日じゃなかった? この前健康診断の申込書で見たんだ。ついでにおめでとう! みんなにかんぱーーーい!」
高く掲げたのはフルーツタルトにのっていたメロン。
ようやく現状に気づいたふたりは、少し赤い顔で「ありがとう」とコーヒーカップを持ち上げた。
掲げてみたもののメロンはきらいなので、「はい、誕生日プレゼント」と湊くんのショートケーキの上にのせる。
「湊くんもおめでとう! ♪ハッピーバースデ~ トゥ~ ユ~♪」
岩本さんが歌い出したので、私と美里さんも一緒に歌った。
「♪ハッピーバースデー トゥ~ ユ~♪湊くんおめでとう!」
美里さんからモンブランの上の栗が、岩本さんからモカショコラに付いているコーヒービーンズが、それぞれ湊くんのお皿に移される。
「あ、ありがとうございます。おふたりこそ、おめでとうございます」
恥ずかしそうに俯きながら、モジモジとした声でそう答えた。
幸せいっぱいでケーキを頬張る美里さんと岩本さんを尻目に、私はカスタードクリームの陰に隠れていたメロンもほじくり出してそっと湊君のお皿に移した。
「誕生祝いって久しぶりだな」
感慨深げな湊くんのつぶやきには「男なんてそんなものか。私ならいくつになっても盛大に祝ってもらうのにな」と深く考えもせず、湊くんのイチゴをこっそり奪って口に放り込んだ。
「ということは、美里さんもこのマンションに住むんですね」
さっきまでとは違う視点で、美里さんは再び部屋を見回した。
「ふたりだとちょうどいいけど、これから子どもが増えると狭いかな」
「でも本当に破格の値段だったから」
岩本さんがしつこくくり返すのだから、相当安かったのだろう。
うちの会社でも年度末の決算に入っているから、不動産会社も売るのに必死だったのかもしれない。
「破格の値段って、何か理由があるんですか?」
「十年経ってないとは言っても、ちょっとガタがきててね。建て付け悪いのか勝手にドアが開いたり、接触悪くて急に停電したりするんだよ。家鳴りもひどいし。そんなに気にならないけど、それだけが欠点かな」
照れながら答えた岩本さんの発言は、一同を凍りつかせた。
「それって……本当に建て付けとか接触の問題なんですか……?」
私は急にただならぬ気配を感じて身震いした。
湊くんは黙って固まったままだけど、少しだけ顔色が悪い。
それでも美里さんは力強い笑顔を浮かべた。
「望むところよ。何人との同居になるか知らないけど、スリリングで楽しい家じゃない!」
私が返事をする前に、岩本さんの後ろの壁がミシリと音を立てた。
少し振り返ったものの、岩本さんは何事もなかったかのようにケーキの最後のひと口を頬張った。
「隣の人、帰ってきたみたい」
ここ、角部屋でしたよね……。
美里さんと湊くんが、ぎこちなくうなずいた。