gift
先輩たちの話によると、滝島課長のアレは入社直後から始まっていたらしい。
せめてもう少し発症が遅ければ、と全世界が悔やんでいる。
「でも今はいろいろ技術が発達しているのに、堂々とイケメンの裏面にアレを張りつけておくなんて、むしろ潔くない?」
「まさかと思いますけど、気づいてないって可能性はありませんか?」
「ないと思うけど、確認する勇気はないよ」
「あやめさんが本当に課長を好きなら止めませんけどね」
正面だけならさっき別れたアホ彼よりも好条件なのだ。
課長なら浮気もしなそう。
恋人になれたら大切にしてもらえると思う。
「でもやっぱり、なんか違うよね」
条件で人を選んで失敗したくせに、私はまた条件で課長を選ぼうとしていた(そもそも課長が私を選ばないだろうという話は、一旦置いておく)。
本当に課長を好きなのか、マイナスとプラスを計算した上で「ややプラス」と判断したのか、と考えると、明らかに後者だ。
何より、あんなに素敵なお顔で後頭部だって見えないのに、キスをしたいと思えない。
軽く目を閉じて想像してみるものの、唇がくっつく寸前でぱっちり目を開けてしまった。
「夏歩ちゃんは、打算に打算を重ねて選んだ相手が、もし見込み違いだってわかったらどうする?」
「打算計算何でもあり。恋は熾烈な泥仕合を勝ち抜いた者だけが手にできる、至高の花です!」と息まく夏歩ちゃんだ。
ピンク色でかわいいけれどかなり強めのカクテルを、コクコクッと飲み干してタンッとテーブルに戻す。
「賭けに負けた責任は、自らの人生をもってあがないます~」
「夏歩ちゃん、格好いい! よーし! 日本酒いこう!」
「かわいくないから嫌です~」
夏歩ちゃんは、結局なんだかわからないかわいいカクテルで、私はオススメと書いてある日本酒を右から順番に頼む。
「恋ってどうやってするんだっけー? あー! 一刻も早く新しい恋がしたーい!」
課員全員からの呆れた視線をビシバシ受けながら、佐賀県のお酒を傾ける。
「別に錯覚でもいいと思うんです。今回は最悪でしたけど、もし一生気づかずに幸せな結婚したんだったら、打算でも何でも構わないと思いませんか~?」
「今回の件を踏まえて、いずれどっかで崩壊したんじゃないかと思うんだけど」
「じゃあドラマみたいに事故に遭ったり、病気になったり、試練を乗り越えないとダメですか? “真実の愛”とか“無償の愛”なんて気色悪いもの求めないでくださいよ」
まったく同感なので、愛の幻ごと三重県のお酒を飲み下した。
「試練はいいや。ガラじゃないもん。手っ取り早く幸せな恋がしたい」
突っ伏してテーブルに額を付けと、ひんやりして気持ちいい。
福井県のお酒は黙したまま、気持ちは置いてきぼりで体温だけを上昇させた。
冷めきった胸を熱くするには、何をどれくらい飲んだらいいのだろう。
せめてもう少し発症が遅ければ、と全世界が悔やんでいる。
「でも今はいろいろ技術が発達しているのに、堂々とイケメンの裏面にアレを張りつけておくなんて、むしろ潔くない?」
「まさかと思いますけど、気づいてないって可能性はありませんか?」
「ないと思うけど、確認する勇気はないよ」
「あやめさんが本当に課長を好きなら止めませんけどね」
正面だけならさっき別れたアホ彼よりも好条件なのだ。
課長なら浮気もしなそう。
恋人になれたら大切にしてもらえると思う。
「でもやっぱり、なんか違うよね」
条件で人を選んで失敗したくせに、私はまた条件で課長を選ぼうとしていた(そもそも課長が私を選ばないだろうという話は、一旦置いておく)。
本当に課長を好きなのか、マイナスとプラスを計算した上で「ややプラス」と判断したのか、と考えると、明らかに後者だ。
何より、あんなに素敵なお顔で後頭部だって見えないのに、キスをしたいと思えない。
軽く目を閉じて想像してみるものの、唇がくっつく寸前でぱっちり目を開けてしまった。
「夏歩ちゃんは、打算に打算を重ねて選んだ相手が、もし見込み違いだってわかったらどうする?」
「打算計算何でもあり。恋は熾烈な泥仕合を勝ち抜いた者だけが手にできる、至高の花です!」と息まく夏歩ちゃんだ。
ピンク色でかわいいけれどかなり強めのカクテルを、コクコクッと飲み干してタンッとテーブルに戻す。
「賭けに負けた責任は、自らの人生をもってあがないます~」
「夏歩ちゃん、格好いい! よーし! 日本酒いこう!」
「かわいくないから嫌です~」
夏歩ちゃんは、結局なんだかわからないかわいいカクテルで、私はオススメと書いてある日本酒を右から順番に頼む。
「恋ってどうやってするんだっけー? あー! 一刻も早く新しい恋がしたーい!」
課員全員からの呆れた視線をビシバシ受けながら、佐賀県のお酒を傾ける。
「別に錯覚でもいいと思うんです。今回は最悪でしたけど、もし一生気づかずに幸せな結婚したんだったら、打算でも何でも構わないと思いませんか~?」
「今回の件を踏まえて、いずれどっかで崩壊したんじゃないかと思うんだけど」
「じゃあドラマみたいに事故に遭ったり、病気になったり、試練を乗り越えないとダメですか? “真実の愛”とか“無償の愛”なんて気色悪いもの求めないでくださいよ」
まったく同感なので、愛の幻ごと三重県のお酒を飲み下した。
「試練はいいや。ガラじゃないもん。手っ取り早く幸せな恋がしたい」
突っ伏してテーブルに額を付けと、ひんやりして気持ちいい。
福井県のお酒は黙したまま、気持ちは置いてきぼりで体温だけを上昇させた。
冷めきった胸を熱くするには、何をどれくらい飲んだらいいのだろう。