gift
私は恐らくお酒には強い。
今夜も、一般的な女子なら泥酔してお持ち帰りされるくらいには飲んだけど、記憶もあるし、ふらつかずに歩ける。

「あ、会社に携帯忘れた」

そういうことにきちんと気づけるくらい、意識もしっかりしていた。

「大丈夫ですか~? 私会社の前通るので、タクシー相乗りして行きます~?」

「ありがとう! いいの? 助かる~」

今夜の夏歩ちゃんの成果が、大学生アルバイト(実家は普通のサラリーマン家庭)からの連絡先入り箸袋だけだったことを笑いながら帰り、タクシー代を渡して会社の前で降りると、路上には明かりが降っていた。

営業時間が終了して電気が消えているエントランスに対して、フロアはまだあちこち電気がついている。
事務課のある二階フロアもほとんどの電気は消えているのに、奥の方に一部分だけ明かりが見えた。

「お疲れさまでーす。あれ?」

挨拶しながらドアを開けると、フロアには湊くんひとりだけ。
そういえば、飲み会にはいなかった。

残業していたらしい湊くんは一瞬振り返り、

「え?」

と腕時計で時間を確認した。

「まさか、飲み会忘れてた?」

「いや、行くつもりだったんだけど……」

「もう終わったよ」

「そうみたいだね」

そう言うとさっさと気持ちを切り替えたようで、再びパソコンに向かう。

私も湊くんの斜め向かいにある自分のデスクに行き、引き出しを開けるとちゃんとそこに携帯は残されていた。

「あー、よかった」

ここにあるはずだと思っても、手にするまでは落ち着かなかった。
この個人情報の塊が万が一なくなっていて、落としたのか盗まれたのかわからなかったら、おちおち寝てもいられない。

ホッとしてイスに座り、エントランスの自動販売機で買ったペットボトルのお茶を飲む。
偶然ながらその角度は、湊くんが真正面に見えた。
前髪とメガネに阻まれて、彼の表情は今日もよくわからない。
< 20 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop