gift
落ち込み過ぎて少し冷静になれた私は、脳に糖分を与えようと、自動販売機で普段は飲まないバニララテを買った。
ゴーーーーッと内部でバニララテが作られている間、自動販売機の広い胸にすがる。
私、なんてダメな人間なんだろう。
前の恋愛も、それはいろいろ問題はあったけど、それでも他人様に迷惑をかけるようなことはしなかった。
『中途半端で周りに迷惑かけるなんてサイテーーー!』という夏歩ちゃんの言葉が、痛いところによく響く。
恋愛より仕事が大事とは言わないけれど、迷惑をかける範囲の広さを考えると、個人的問題は些末なことだ。
お腹辺りがもぞもぞするので見下ろすと、バニララテができあがって、扉を開けようとしている。
落ち込み過ぎて動くのも辛いから、立ったままその場でひと口飲んだ。
「うわ、あまーい」
喉を焼くような糖度に顔が歪むけれど、「ええい! 私への罰だ!」と飲みつづけた。
「座って飲んだら?」
ポケットの中の小銭を確認しながら、湊くんが私の後ろを通り過ぎて、お金の投入口前に立つ。
バニララテの衝撃で少し落ち着いたはずの気持ちが、あっさりと元に戻ってしまった。
そもそも湊くんが悪いんじゃないかと、唐突に思った。
湊くんが好きになんてさせるから悪い。
そうだ、全部湊くんのせいだ。
お金を投入し終えて、コーヒーの調節機能を「コーヒー濃いめ」を一段階、「砂糖標準」「ミルク多め」を二段階に設定しているメガネ男を見て、八つ当たりが爆発した。
細やかな設定を丸無視して、バンッと「バニララテ」を押す。
「ああああ!」
「これ、すっっっごく甘くて、あんまりおいしくないから、めちゃくちゃおすすめ!」
「うわ、最低……」
さっきと同じように少し長い時間をかけて、自動販売機はせっせとおいしくないバニララテを作っている。
「あのね、湊くん」
仕打ちに不満だったようで(当たり前)、ムスッとしたまま返事はしてくれない。
だけど、聞こえていることはわかったから、話はつづけた。
「好きです」
ゴーーーーーッという機械音に邪魔されたのかと思うほど、湊くんは反応しない。
だから少し声を強めた。
「最近気づいたんだけど、ちょっと、どうしようもないくらい好きです」
ゴーーーーーッという音が、ブイーーーーンに変わる。
さっきと今では、どういう作業の違いがあるのだろう。
「だから、私と付き合ってください」