gift
「それでね、母からの誕生日プレゼントが、手作りの茶碗だったの! もう最悪!」
「何がダメなの?」
「あの不器用な母親が、繊細なものなんか作れるわけないんだよ!中途半端なサイズでね、まさに帯に短し襷に長し。茶碗には大きく丼には小さいの」
「今井さんはお母さん似なんだね」
「はい、-1ポイント! 運転終わったら仕返し考える」
私の残りを食べ終えた湊くんに、ご馳走さまでした、と頭を下げたら、目の前に手のひらが差し出された。
「えー! やっぱり払えってこと?」
「違う。車の鍵貸して。帰りは俺が運転するから」
なんだそうか、とバッグに入れていた鍵を差し出しかけて、
「……事故、大丈夫?」
「大丈夫だと思う。だけど一応絶えず話しかけて。……それは、頼まなくてもいつもそうか」
失礼なやつは鍵を投げつけられても……と思ったけど、さすがに鋭利なものはそっと手のひらに乗せ、命を預けたのだった。
もちろん言われなくても湊くんには話しかけるけど、こんなに長い時間ふたりきりなんてなかったので、思いの外話題に困った。
仕方ないので、とにかく私の近況をベラベラと、落ちもとりとめもなく話つづけている。
「しかも重いし、よく見たらあちこちに指型までついてるの。お茶碗ってちゃんと手で持って使うものなのに、あんなのすぐに疲れて、食べるのがいやになるよ。きっちり電話で文句言ったのに『世界でたったひとつだけのオンリー碗だよ』だって! あ、このダジャレは身内の恥だから極秘ね」
「やっぱり今井さんはお母さん似だ」
「-2ポイント!」
話を聞いた時は不安だったけれど、湊くんの運転はとても安心できるものだった。
別にぼーっとしているような様子もないし、急ブレーキ急ハンドルもない、むしろやさしい運転。
私は危険だったことも忘れて、すぐに会話に夢中になっていた。