gift

「それでね、母からの誕生日プレゼントが、手作りの茶碗だったの! もう最悪!」

「何がダメなの?」

「あの不器用な母親が、繊細なものなんか作れるわけないんだよ!中途半端なサイズでね、まさに帯に短し襷に長し。茶碗には大きく丼には小さいの」

「今井さんはお母さん似なんだね」

「はい、-1ポイント! 運転終わったら仕返し考える」

私の残りを食べ終えた湊くんに、ご馳走さまでした、と頭を下げたら、目の前に手のひらが差し出された。

「えー! やっぱり払えってこと?」

「違う。車の鍵貸して。帰りは俺が運転するから」

なんだそうか、とバッグに入れていた鍵を差し出しかけて、

「……事故、大丈夫?」

「大丈夫だと思う。だけど一応絶えず話しかけて。……それは、頼まなくてもいつもそうか」

失礼なやつは鍵を投げつけられても……と思ったけど、さすがに鋭利なものはそっと手のひらに乗せ、命を預けたのだった。

もちろん言われなくても湊くんには話しかけるけど、こんなに長い時間ふたりきりなんてなかったので、思いの外話題に困った。
仕方ないので、とにかく私の近況をベラベラと、落ちもとりとめもなく話つづけている。

「しかも重いし、よく見たらあちこちに指型までついてるの。お茶碗ってちゃんと手で持って使うものなのに、あんなのすぐに疲れて、食べるのがいやになるよ。きっちり電話で文句言ったのに『世界でたったひとつだけのオンリー碗だよ』だって! あ、このダジャレは身内の恥だから極秘ね」

「やっぱり今井さんはお母さん似だ」

「-2ポイント!」

話を聞いた時は不安だったけれど、湊くんの運転はとても安心できるものだった。
別にぼーっとしているような様子もないし、急ブレーキ急ハンドルもない、むしろやさしい運転。
私は危険だったことも忘れて、すぐに会話に夢中になっていた。
< 34 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop