gift
「使わないからしまってるんだけど、変に大きいから場所も取るんだよね」
「『オンリー碗』……」
「それは忘れて! -3ポイント!」
本っっっ当に邪魔なだけの茶碗なのだけど、湊くんが笑ってくれたから初めて茶碗が役立った。
「あんなもの誰も欲しがらないじゃない? やっぱりオンリーワンになんて価値ないんだよ。ナンバーワンの方がいいに決まってる。そう思いながらしみじみ眺めていたらね、『母が作った重くて誰も欲しがらないオンリーワンって、まるで私のことみたい』って思えてきて、なんか憐れで。誰か引き取ってくれないかな。あれ? ここどこ?」
流れていく景色は、今朝私が運転してきた道とは全然違う。
どこだかわからない裏道を、ぐるぐる回っている気がする。
「どこだろうね」
「え? 迷ったの?」
「うん」
「ちょっと早く言って! ナビ設定するから」
「いや、いい」
ナビ画面に手を伸ばしかけた私を、湊くんが声で制する。
「だいたいの位置はわかるから、そのうち着く」
「そのうちって悠長な」
「急ぎの用事でもあるの?」
「ないけど」
「じゃあ、すぐに帰りたい?」
その質問は、意地悪だ。
「……帰りたくない」
湊くんと一緒なら、永遠に迷っていたい。
あとで課長に叱られたって構わない。
「ごめん。迷ったから-4ポイント? お詫びにオンリー碗は引き取るよ」
「あんなのいる?」
「聞いてたらむしろ欲しくなった」
「やっぱり変わってるね。明日会社に持って行くから、飽きたら捨てて」
仕事とくくるにはあまりに幸せな時間だった。
遠回りも迷うことさえも、湊くんとなら楽しい。
迷って遠回りして、それでもいつか願う場所にたどり着けるなら、それでいいと思っていた。