gift
神様はやっぱりいるのだ。
悪いことをしたらちゃんとバチが当たる。
拓真から借りてた漫画を岩本さんにあげちゃったり、会社の備品のセロテープをもらっちゃったり、思い当たることは山ほどある。
だけど、これまでの行いを悔い改めて、毎日真面目に出勤しても、もう湊くんには会えないのだ。
「あやめさん、手伝いましょうか~?」
料理の減り具合を見ながら追加して、お皿を置くスペースを作って、お酒の注文を取って、隣の席の女子会に首を突っ込んでいる先輩のお尻を蹴飛ばして……。
新入社員の頃以上に、私は猛烈に働いていた。
手伝いを申し出てくれた夏歩ちゃんにもメニューを差し出して、彼女の希望に従って南イタリア産のワインを注文する。
チョコレートフレーバーという文句に惹かれたようだ。
先日の湊くんの異動発表の後、課長は送別会の幹事に私を指名した。
「同期だし仲いいから。頼んだよ」
『仲いい』の部分はともかく、『同期』であることは確かだし、むしろ仕事を与えてもらってよかったと思う。
会場として評判のいいイタリアンレストランを予約したのだけど、お酒がワイン中心なのは誤算だった。
ワインは得意じゃない。
しかもオシャレな雰囲気なんて、十二単並みに似合わない事務課。
お隣の女子会メンバーにこっそり謝罪しておく。
「こっちは大丈夫。あ、じゃあ岩本さんの相手して」
「わかりました~」
元気に返事をした夏歩ちゃんは、的確に私の意図を汲んで動き出した。
届いた黒毛和牛ジューシーステーキがテーブルに着くか着かないかで、鉄板ごと夏歩ちゃんが取り上げる。
「あ、俺の!」
「はい、岩本さん! どうぞ~」
岩本さんがステーキを迎え入れるために、せっせと空けたスペースには、パプリカ、トマト、キュウリ、カリフラワー、ラディッシュなど色鮮やかな特製バーニャカウダ(パーティーサイズ)がそのままドカッと置かれた。
美里さんから、なるべく野菜を食べさせて、という厳命を受けているのは、夏歩ちゃんも承知している。
岩本さんは、どれも好きじゃないのに~、と迷った末、しぶしぶカリフラワーを口に詰める。
私はビールをこぼした人に布巾を投げつけながら、グラスのワインを一気飲み。
チョコレートフレーバーなんて感じる余裕もない。
というか、何飲んだってワイン味としかわからない。
「あやめさん、こっちは大丈夫ですから、湊さんのところに行ってきていいですよ」
返事をしたくなかったので、黒毛和牛ジューシーステーキで自分の口を塞いだ。
高いくせに小さめのステーキはやわらかくとろけて、残念ながらすぐに飲み込めてしまう。
「あ、これおいしい! でもさすがに脂が胃にたまるね」
「そうですねぇ。ひと切れくらいは岩本さんにあげましょうか。岩本さん、どうぞ~」
「黒毛和牛~~~!」
「残りは……はい、課長、どうぞ~」
ひと切れ分けてもらったステーキを、岩本さんは涙とともに噛みしめている。
悪いことをしたらちゃんとバチが当たる。
拓真から借りてた漫画を岩本さんにあげちゃったり、会社の備品のセロテープをもらっちゃったり、思い当たることは山ほどある。
だけど、これまでの行いを悔い改めて、毎日真面目に出勤しても、もう湊くんには会えないのだ。
「あやめさん、手伝いましょうか~?」
料理の減り具合を見ながら追加して、お皿を置くスペースを作って、お酒の注文を取って、隣の席の女子会に首を突っ込んでいる先輩のお尻を蹴飛ばして……。
新入社員の頃以上に、私は猛烈に働いていた。
手伝いを申し出てくれた夏歩ちゃんにもメニューを差し出して、彼女の希望に従って南イタリア産のワインを注文する。
チョコレートフレーバーという文句に惹かれたようだ。
先日の湊くんの異動発表の後、課長は送別会の幹事に私を指名した。
「同期だし仲いいから。頼んだよ」
『仲いい』の部分はともかく、『同期』であることは確かだし、むしろ仕事を与えてもらってよかったと思う。
会場として評判のいいイタリアンレストランを予約したのだけど、お酒がワイン中心なのは誤算だった。
ワインは得意じゃない。
しかもオシャレな雰囲気なんて、十二単並みに似合わない事務課。
お隣の女子会メンバーにこっそり謝罪しておく。
「こっちは大丈夫。あ、じゃあ岩本さんの相手して」
「わかりました~」
元気に返事をした夏歩ちゃんは、的確に私の意図を汲んで動き出した。
届いた黒毛和牛ジューシーステーキがテーブルに着くか着かないかで、鉄板ごと夏歩ちゃんが取り上げる。
「あ、俺の!」
「はい、岩本さん! どうぞ~」
岩本さんがステーキを迎え入れるために、せっせと空けたスペースには、パプリカ、トマト、キュウリ、カリフラワー、ラディッシュなど色鮮やかな特製バーニャカウダ(パーティーサイズ)がそのままドカッと置かれた。
美里さんから、なるべく野菜を食べさせて、という厳命を受けているのは、夏歩ちゃんも承知している。
岩本さんは、どれも好きじゃないのに~、と迷った末、しぶしぶカリフラワーを口に詰める。
私はビールをこぼした人に布巾を投げつけながら、グラスのワインを一気飲み。
チョコレートフレーバーなんて感じる余裕もない。
というか、何飲んだってワイン味としかわからない。
「あやめさん、こっちは大丈夫ですから、湊さんのところに行ってきていいですよ」
返事をしたくなかったので、黒毛和牛ジューシーステーキで自分の口を塞いだ。
高いくせに小さめのステーキはやわらかくとろけて、残念ながらすぐに飲み込めてしまう。
「あ、これおいしい! でもさすがに脂が胃にたまるね」
「そうですねぇ。ひと切れくらいは岩本さんにあげましょうか。岩本さん、どうぞ~」
「黒毛和牛~~~!」
「残りは……はい、課長、どうぞ~」
ひと切れ分けてもらったステーキを、岩本さんは涙とともに噛みしめている。